理系ミステリ−のニューウェーブ

湯川薫



科学者・湯川幸四郎の人気シリーズ

  湯川薫は一九九九年に『ディオニシオスの耳』でデビューした。ジャンルとしては、森博嗣、瀬名秀明に続く「理系ミステリー」に分類される。
 
  湯川自身も大学で教鞭をとるかたわら竹内薫名義で多数の科学書を著しており、『ディオニシオスの耳』にも科学者・湯川が色濃く反映されている。

  主人公にして探偵格の湯川幸四郎は、茗渓大学に非常勤講師として勤務しており、自然科学概論などを担当している。年齢は三十代なかばで、曾祖父と祖父は天才的な科学者だったために、なにかと比較される境遇にある。幸四郎もすぐれた頭脳の持ち主だが、それゆえに自分の長所も短所も理解している。幸四郎が世捨て人のような雰囲気を漂わせているのは、このためかもしれない。

  第一作の『ディオニシオスの耳』において、幸四郎はかつて学んだマッギネス大学の同窓生が、次々と殺害される事件に遭遇する。真相は幸四郎が解決するものの、その結
末は過酷なものであった。

  続く第二作『虚数の眼』では、熊のぬいぐるみの中から、子供の死体が発見されるという怪事件が発生。幸四郎は警視庁化科学捜査班の要請で、事件捜査に乗り出す。クライマックスの謎解きシーンは圧巻の一語で、個人的にはこれで湯川小説にハマりました。

  第三作『イフからの手紙』は、ヒロインである十文字葵と、前作から登場の冷泉恭介がメインの物語だ。この二人のファンはもちろん、ゲストの車大吉の存在感も特筆ものだ。
 
  現在、最新作が『漂流密室』だ。「世界遺産ミステリー@屋久島」というサブタイトルが付けられており、最大の特筆事項として、すねやかずみによってキャラクターがビジュアル化された。漂流する人工浮島(テラ・フロート)で発生する連続殺人事件、というのが最高に燃える。

  いずれも、得意の科学知識を駆使した内容だが、(筆者のような)文系の人間が引いてしまうことはない。むしろ、湯川本人の講義風景(あぁ、拝聴してみたいです)が浮かぶような会話が楽しいし、個人的には第二作ような暗号講義は知的興奮を禁じ得ない。人によっては、「量子」とか「虚数」あるいはなんてキーワードに燃えるだろう(燃えない人も、著者みずから作成の図解があるから問題なし!)。

  また、科学的要素もさることながら、魅力あるキャラクターにも注目。

  探偵役の幸四郎は、科学者にありがちなクールな面(偏見でしたらすみません)も持ちながら、ときおりみせてくれるホットな面が最高だ。ちなみに独身。ヒロインの十文字葵は幸四郎の教え子で、美人でスポーツマンで明るい性格でまったく問題なし! ……なのだが、両親が離婚したという痛ましい過去がある。幸四郎とは連れだって遊びに行くような仲なのだが、いまのところ発展はしていない。もう一人の教え子である冷泉恭介は、長髪の似合うカッコイイ男で、その頭脳は時に幸四郎すら舌を巻く。葵とも意気投合しているが、男女の仲への発展はまだのようだ。最新作では、恭介がメインとなって「シュレ猫探偵団」を結成、幸四郎の捜査をサポートしている(燃えますな)。幸四郎とともに事件に立ち向かうのは、木田務班長が率いる警視庁科学捜査班。風当たりがなにかと強い新設班で奮闘する姿がカッコイイ、ナイスガイ集団だ(おっと、紅一点の林美里もいた)。

  多彩なキャラクターが織りなす人間ドラマとしても、湯川作品は満腹感が味わえるのだ。


サイバー探偵登場!『Dの虚像』           

  幸四郎以外の作品としては、雑誌『カドカワミステリ』で連載していた『桃源郷奇譚』を単行本としてまとめた、『Dの虚像』がある。

  昆虫学者が串刺しにして殺されるという怪事件が発生。そこへ登場するは、サイバー探偵・橘三四郎! マッキントッシュのハードにリナックスのソフトを使い、みずからDNA鑑定をしたり、その結果をもとに千年前ぐらいさかのぼった自分の家系図すら作ってしまう。年齢は二十代の半ば、趣味はパソコン、記号論理学、暗号解読、合気道、ピアノ、映画鑑賞、チャールズ・アイヴズと実に多彩。

  推理については、「なんでもない事実を積み上げて論理的に組み立てたもの」という認識を抱いている。結末は実際に読んでいただければいいのだが、本の帯に踊る「真相は数十億年の彼方にある」というコピーが刺激的だ。

  ちなみに、湯川薫の本に共通する楽しみとして、巻末の付録が挙げられる。登場キャラクターのかけあいで科学講座が展開され、「科学」と聞いて黙り込んでしまう向きも、なんとなくわかった気にはなる(少なくとも、文系の自分はそうです)。

  なお、近刊として『アルファロメオでグッドバイまたは事象の地平線(仮)』が控えている。公式サイトにも行って、情報をチェックしよう。


本田亀四郎氏(スタジオ・ハードMX)
ぶんか社刊「絶対ミステリーが好き!」より



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